iPhone用スピーカー(tanagokoro)制作のきっかけは、
ほんのささいなことでした。
森本さんが、友人のために、プレゼントで演奏しようとした、
キャロルキングの、「You've Got a Friend 」の曲を、
iPhoneで耳コピしようとしたのですが、ギターの音が聞き取れなかった。
音の要素はあるはずだから、ちょっと音を増長したら、聴こえるんじゃないか?
そんな遊び心で、友人の木工屋さん(楽器職人)に、iPhone用の音拡張マシーンを依頼したところ、木工屋さんは、
「設計書を作ってきたら、すぐに作ってやるわ」と言ったそうです。
森本さんは、30分で、CADを使って設計書の図面を作ったそうです。
(さすが、ガラス職人!)
すると、木工屋さんも、30分で、設計書通りに作ってくれたそうです。
それが、この、第1作目のtanagokoroです。
木工屋さん(楽器職人)は、作る前は、「絶対に、いい音、鳴らへんで」と言っていたそうですが、
作ってみると、なんと、見事に音が鳴ったそうです。こうして、森本さんは、スピーカー作りに、はまりました。
音の通る道を長くしたら、もっといい音が出るんじゃないかなあ。
そう思った森本さんは、新たに設計を考えて、第2作目を作りました。
これが、森本さんが自分自身で制作した、はじめてのものになります。
なんと、お母さんが亡くなったときの遺品整理で出てきた、
タンスの木材をばらして作ったそうです。
この第2作目、見事に、音が良くなったそうです。
もっと、形をシンプルにできないかなあ?
そう考えて作った、第3作目。
形はシンプルになりながら、さらに味わい深い音が出るようになりました。
この頃から、森本さんも、かなり本気になってきました。
形をコンパクトにしながら、音が通る道を長くするために考えた結果、
下から音を入れて、上から音を出す形にたどり着きました。
森本さんの研究は続きます。
サイズを大きくして、部屋の数を増やし、部屋の形も大きくすれば、より良い音が出るのだろうか?
でも、あまり大きすぎると、iPhoneの音源のパワー不足で、いまいち響かないことがわかりました。最適な大きさを探る検討が続きます。
少し傾けるとどうなるか?
デザイン的にも美しくなりました。
たどり着いた傾きは、偶然にも、地軸の傾きと同じだったそうです。
検討を重ねた結果、このサイズにたどり着きました。
iPhoneがおさまる、コンパクトな形でありながら、
十分な音量と音質を実現する、このサイズ。
完成度が高まった、このタイプから、
試験的な販売を開始しました。
販売を開始してからも、あくなき探求は続きます。
このあたりから、音質への、細かいこだわりの世界に入ります。
真ん中に穴を開けて、音を途中で抜く検討が始まります。
穴を開けて、棒でふさぎ、
その棒を抜き差しすることで、音質を好みで調整できるという、意欲作。
高音を響かせるか、低音を響かせるか?
遊び心あふれる、試作品です。
板の厚さを、3mmから、2.5mmに変更しました。
制作は大変になりますが、音質へのこだわりの結果、自然にそうなりました。
2.5mmという厚さは、ギターやバイオリンでも採用される厚みだそうです。
2.5mmになったことで、制作にも、かなりの精度が要求されるようになりました。
0.25mmずれるだけで、音質が変わってくる。
そもそも、ずれると組み立てられない。
そんな、精密な、職人技の世界になってきました。
この頃から、iPhone5が発売されました。
内部や、音の出口の、微妙な工夫が続きます。
音の出口に、「返り(奥への曲げ)」を採用することで、低音が出るようになり、
特に、ボーカルの音が、感動するほどのレベルになりました。
しかし、森本さんは、まだまだ、納得できていませんでした。
低音を、もう少し響かせたいなあ。
それぞれの部屋の大きさを、0.5mm単位で調整し直したところ、
ついに、納得のいく、低音の響きと、クリアな音を実現しました。
少し背が高くなりましたが、
この後に発売されるiPhone6が、5より大きくなりそうという予測も見越していました。
最後の音の抜き方で、音が微妙に変わります。
7つ穴で、音を抜くのが、いちばんバランスが良いという結論になりました。
これが、今時点の最終形です。
森本さんは、この形がベストで、これでもう確定だと言っていますが、
本当かどうかはわかりません。
またすぐに、新しい改良品を作ってしまうかもしれません。
iPhone6になり、iPhone自体の音質と、音量が高まったようで、
tanagokoroとの相性は、抜群のようです。ますます、感動的な音になりました。
iPhone6の場合、最大音量にする必要もない場合がほとんどです。
今まで作ってきた、試作品の数々。
歴史を感じます。
細かい変更も含めると、100個以上の試作品(プロトタイプ)を作って、研究を進めてきました。
今までの、歴代のtanagokoroの設計図がおさめられたファイルです。
CADというソフトを使って、緻密に設計された案が、20以上。
設計だけで、実際には制作されなかった、まぼろし(凝りすぎ)の案もあるようです。
もともと、森本さんが、CADを使いこなす職人だったことが、
tanagokoroの緻密な改良を可能にしてきたと思われます。
知人の勧めもあり、特許出願し、意匠登録しました。